その頃、表世界にて<ウッドキング>(元ウッド王子)の結婚式に参列していた<ナイチンカーベル>。
彼女は医者である<ドクターハイホ>の娘であり、幼少期に人身売買目的で誘拐された経験がある。
今でこそ<冥界の玉>を所有しているが、 もともとはこの玉の力で冥界に閉じ込められていたという皮肉。
このトラウマ体験は、つねに<ナイチンカーベル>の心を傷つけていた。
<ムーンキンタ>との闘いにおいて、執念だけで呪いをかけた<フォレスト>の枯れ木。
半身が木でできていた<フォレスト>にとって枯れるという事はイコール死体と同じ意味ととらえてよいであろう。
しかし死亡しているはずの者が、呪いをかける事が可能なのであろうか?
その疑問は、噂としてつねにあり、もしかしたら<フォレスト>は生きているのではないかという説が浮上してきている。
<ウッドキング>(元ウッド王子)の母親でもあり、 その調査を<ナイチンカーベル>と<ドクターハイホ>に依頼していた。
また<ナイチンカーベル>自身も<フォレスト>が、 玉を通じて<ムーンキンタ>に呪いをかけて金縛り状態にしたという行為について非常に興味があったのだ。
なぜなら<冥界の玉>の未知なる力は人の精神を吸収し混乱させるという能力の他に、 <ツヅラ>に代表される『何かしらの別空間を作り出す装置』なのではないか?という疑問があった。
<パンドラ>も<つづら鬼>も<ツヅラ>に封印されているが、 <ナイチンカーベル>が幼女時代に誘拐されていた場所も同じ<ツヅラ>の中である。
どちらも<冥界の玉>が関係しているわけだが、 そもそも『冥界』とは、どこに繋がっているのであろうか。
言葉の意味としては死後に霊魂が行くとされている世界という記述があるが、事実は誰にもわからない。
<ナイチンカーベル>は<フォレストの枯木>にある穴のくぼみへ<冥界の玉>を埋め込んでみた。
その瞬間!あたりが闇に包まれる!
「ナイチンカーベル!」と近くにいた<ドクターハイホ>の叫び声が聞こえるが姿は見えない。
それもそのはず、周囲が暗闇に包まれたのではなく<ナイチンカーベル>が<フォレストの枯木>に覆われてしまったのであった。
暗闇の世界から、ヒタヒタと足音が聞こえる。
「誰?ここはどこ?」と<ナイチンカーベル>が問う。
「ここは冥界。君が育った場所じゃないか…」そう答える不気味な仮面の男。
真っ暗に思えた空間も、目が慣れてくると周辺が見渡せるようになってきた。
あたり一面が、木々の根が張られたような状態の中、フワフワと浮遊する屍。
「我は根暗マンサー円魔。屍術師である。」
一方、<フォレスト>の外側にいる<ドクターハイホ>は、 娘を救出するため、躍起になっていた。再び<ナイチンカーベル>を行方不明にするという失態は避けたい。
「もしかしたら…」
<ドクターハイホ>は、あることを思いつく。
もしも娘の仮説が正しいのであれば、【冥界】と【ツヅラ】は同じ空間なのではないか?
<ドクターハイホ>は急いで森の奥にある自宅近くの洞穴に向かう。
そこには<ツヅラ>が封印されていた。
「ツヅラの中に入れば、きっといるはずだ…」
それは一種の賭けでしかなかった。しかし娘の仮説を信じるしか方法がない。
さいわい万事に備えて武装していた<ドクターハイホ>は、そのまま<ツヅラ>の中へと身を投じる。
<ツヅラ>の中は薄暗いが、空間は広かった。唯一気をつけなければいけないのは、
封印している<パンドラ>と<つづら鬼>の存在。
しかしその心配は、すぐに払拭されることとなる。
「こ、これは」
<ドクターハイホ>が目にするのは、腐敗した<パンドラ>と<つづら鬼>の姿であった。
つづく